酵素は、人体に60兆個あるとされる細胞のすべてで産生されている物質です。
人は生き続けるために新陳代謝を行い続ける必要があり、そのためには酵素が必須です。
体内中で起きる生命維持に係わるあらゆる化学反応は、「酵素とよばれるタンパク質分子」の 触媒作用によって成り立っています。
すなわち、酵素は食材として摂取した生命を支える有機化合物や無機化合物に触媒として働きかけ、生命維持に必要な物質に変換するための化学反応を起こさせているのです。
その内容は、物質の分解・消化を始めとして、吸収・輸送・代謝・排泄などの生命維持活動のすべてへの関与であり、体が物質を変化させて利用するのに欠かせないのです。
酵素の構成
酵素は基本的にタンパク質から構成されていますが、タンパク質だけで構成されている場合もあれば、非タンパク質性の構成要素(補因子)を含む複合タンパク質もあります。
酵素が複合タンパク質の場合、補因子と結合していないと活性が実現しません。
強固な結合や共有結合をしている補因子を、補欠分子族といいます。
そして生体が要求する微量金属元素は、補欠分子族として酵素に組込まれていることが多いのです。
※ 補欠分子族としての金属元素(ミネラル)
鉄Fe、亜鉛Zn、銅Cu、 カルシウムCa、マンガンMn、モリブデンMo、コバルトCo、ニッケルNi、セレンSe.
酵素の働きやすい温度帯
酵素はタンパク質をもとに構成されているので、タンパク質と同様に「熱やpH(ペーハー)によって変性し、活性を失う特性」をもっています。
人体において酵素が働きやすい温度帯は36~40℃です。
※酵素の働く至適温度:動物 35~50℃、植物 40~60℃、好熱性細菌 80~100℃
※酵素は、生物体内における反応のすべてを起こしているといってよく、従って代謝反応の関与する生物体内であれば、普遍的に存在します。
酵素の産生場所と存在場所
1.膜 酵素
酵素は細胞で作られ、生体膜(細胞膜や細胞内部の細胞小器官膜)に結合して存在。
物質輸送やエネルギー保存に関与するものが多く、生体膜の機能を担う重要酵素群が存在。
2.可溶型 酵素
細胞質(細胞核を除く細胞膜内部)や細胞外に存在し、細胞質での代謝には多く関与。
例外は、消化酵素に代表される「分泌型酵素」。
消化液の膵液に含まれる3種類の酵素は膵臓で作られますが、十二指腸に送られて酵素として炭水化物・タンパク質・脂質の消化に携わります。
酵素の分類
1.体内酵素(内部酵素、潜在酵素)
食事で摂取したタンパク質は、消化液で分解されてアミノ酸になり、小腸に送られて体内に吸収されます。そのアミノ酸は数十から数千個が体内細胞で再度組み合わさり、新たなタンパク質に作りだされ、それが細胞・臓器に必要な「体内酵素」として機能します。
体内酵素は身体の内部でつくられる酵素なので、「内部酵素」とも呼びます。
体内酵素は、効用内容から「消化酵素」と「代謝酵素」の2種類に分類され、合計では5千種類以上あるとされています。
・消化酵素 食材を消化し、栄養素を体内に吸収するための必須酵素。約3,000種類。
・代謝酵素 代謝活動。約2,000種類。
一生の間に作り出される体内酵素の総量は、遺伝子によって誕生のときに決められていて、それ以上は作り出せないとされています。
更に、40代に入ると産生量が激減するといわれており、この体内酵素の大幅な減少が体調不良の人が40代から多くなる原因といわれています。
体内酵素は、将来的にも体内で作られるであろう酵素でありながら、産生量が限定されていることから、「潜在酵素」ともよばれています。
★「代謝酵素」の主な働き
①新陳代謝の促進・・・吸収された栄養分を細胞に届け、有効に働く手助けをする。
②細胞の形成
③ホルモンバランスの調整
④自然治癒力の向上・・・体の悪い部分を改善し、病気を治す。
⑤体内毒素の除去・・・毒素を無毒化して、汗や尿のなかに排泄する。
⑥免疫力の向上・・・病気や感染症、または異物に対して抵抗力を高める。
⑦神経系の正常化
⑧血液の浄化・・・血液をきれいに保つ。
⑨脂肪の分解・・・体内の余分な脂肪を分解して排出する。
とても重要な代謝酵素その1.ATP合成酵素(俗称:エネルギーの通貨)
人の細胞60兆個すべてに、1個当たり数百個から数千個のミトコンドリアという呼吸のための細胞小器官があり、そこでATPという高エネルギー化合物が合成されています。
生体内に起こっている様々な現象は、ATPの分解によって放出されるエネルギーを利用して行われています。
人は何もしないで寝ているだけでも、1日にほぼ自分の体重に相当する量のATPを合成しては分解しています。
これは、体内に非常にたくさんのATP合成酵素があることを表しているのです。
とても重要な代謝酵素その2.SOD(スーパーオキシドディスムターゼ)
SODは抗酸化酵素であり、活性酸素・フリーラジカルを消去あるいは除去する酵素で3つの類型があります。
細胞質やミトコンドリアに多く局在しています。
タンパク質に補因子として金属イオン-(銅と亜鉛)・(マンガンと鉄)・(ニッケル)が含まれます。
酸化ストレスを減少させる働きをもっています。
SODの重要性は、健康細胞を破壊して細胞核内のDNA・RNA遺伝子までをも壊してしまうフリーラジカルを消去・除去する抗酸化力にあります。
2.食物酵素(外部酵素)
食物酵素とは、食べ物の中に入っている自然の消化酵素です。
働きとしては、食事で栄養を補給する際に同時に天然消化酵素を補給しますので、それによって体内での消化酵素分泌量を抑えることができます。
食物酵素は生きた酵素であるため熱に弱く、加熱調理の60℃で破壊されてしまいます。
ですから、生の食材とか、酵素が含まれている発酵食品の摂取をお奨めします。
★ 食物酵素が多く含まれている食品
・いちご、キウイ、パイナップル、イチジク、パパイヤ、アボガド、バナナ、マンゴーなどの果物
・魚介類、有機栽培の生野菜(農薬は酵素を破壊します)
・玄米、胚芽米
・味噌、しょう油、ぬかづけ、納豆、キムチ、ヨーグルトなどの発酵食品
※食品添加物・人工色素・保存料、インスタント食品、農薬を使った農作物、カフェインやアルコール類、抗生物質などの薬剤などは、使用している化学物質が酵素を構成するタンパク質と結合して酵素量を減少させ、働きを低下させてしまいます。
酵素から考える健康
私達は酵素が無くなれば、生きていけません。
しかも、一生の間に作り出せる体内酵素の量は決まっており、体内酵素の浪費は間違いなく寿命の短縮につながります。
しかし、裏返してみれば、有限な潜在酵素を無駄遣いせずに節約することで、老化を防止し、いつまでも健康で若々しくいることができるともいえます。
酵素を最も多く使っている場所は、脳と胃を始めとする内臓器官です。
例えば、ストレスなどを強く感じると、脳で代謝酵素が大量に使用され激減します。
お酒を飲みすぎると肝臓で消化酵素が激減。胃や膵臓は普段から消化酵素を大量に消費しています。
酵素は、人が生きるために必須の「食物の消化」と「細胞の代謝」を支える不変の二本柱です。
ですので、いかに酵素を効果的に使うかは健康を左右する鍵になります。
酵素の効果的使用 前提条件
1.体内酵素には消化酵素と代謝酵素があるが、両者を合わせた一生の産生量は有限であり、40歳代に入ると産生量が激減することをしっかり自覚する。
2.体内消化酵素の産生量を減らし、余力を代謝酵素の産生に振り替える工夫をする。
・消化酵素を多く含む食物酵素をまんべんなく摂り、体内消化酵素の消耗を防ぐ。
・食物酵素の多い生ものから先に食べることで、消化酵素の無駄使いを防ぐ。
・よく噛んで、ゆっくり食べることで、消化酵素の無駄使いを防ぐ。
・腹八分目を意識し、食べ過ぎを控える。
・消化しきれない脂肪分は体内脂肪のもと。消化の悪い動物性タンパク質を少なくする。
・円滑な排便につとめる。時にはダイエットなどで腸内環境を整える。
・ストレスを抑える。いつも悲観的に考えることはストレスの最大原因。
・アルコール、食品添加物・保存料を摂らないように努め、タバコを吸わない。
・7時間程度の睡眠を目標に起床時刻を一定に定め、安定した睡眠をとることで、消化・代謝の良好なリズムを築く。
代表的な酵素の一覧
1.消化・同化作用・異化作用・エネルギー代謝に関与する酵素
・プロテアーゼ(タンパク質分解酵素)
・ペプシン、トリプシン(タンパク質分解酵素)
・パパイン、ブロメライン(タンパク質分解酵素)
・トロンビン(血液凝固系の酵素)
・脂質分解酵素
・リパーゼ(脂質の消化酵素、胃液・膵液に含有)
・リポタンパク質リパーゼ(体内脂質輸送)
・酸素添加酵素(オキシゲナーゼ)
・モノオキシゲナーゼ
・シトクロムP450(薬物の分解酵素)
※ 肝臓において解毒を行う、ステロイドホルモンの生合成、脂肪酸の二次代謝にも関与
・ペルオキシダーゼ
・カタラーゼ 過酸化水素(活性酸素の生成物の分解)
・エネルギー代謝に関する酵素
・ATP合成酵素(呼吸鎖複合体におけるATP産生)
2.遺伝に関する酵素
・DNAポリメラーゼ(DNAの複製・修復)
・RNAポリメラーゼ(DNAのm‐RNAへの転写、遺伝子の発現)
・ヌクレアーゼ(DNA・m-RNAの編集、拡散代謝)
・アミノアシルtRNAシンセテース(t-RNAの合成)
3.細胞内のシグナル伝達・分子修飾に関する酵素
・リン酸化酵素(キナーゼ)(細胞の増殖、分裂、死亡等の指令発信)
・脱リン酸化酵素(フォスファターゼ)(脱シグナル化)
・グリコシルトランスフェラーゼ(生体内でオリゴ糖や多糖の合成に関与)
・DNAメチラーゼ(遺伝子発現の制御)
20世紀に入って、酵素に関連したノーベル化学賞、ノーベル生理学・医学賞の授与は1997年までに計11回、19名になされており、大変重要な分野といえます。