健康は自らで守るセルフケアーの時代 5

Ⅸ.【 脂質 】

脂質はタンパク質と並び、身体を作り機能させるための必須栄養素です。

健康な皮膚や頭髪、細胞膜、血液、ホルモンなどの原料であり、ビタミンA、D、Eなどの脂溶性ビタミンの吸収を助けます。

しかし一方で、脂質、特に動物性の脂肪摂取の摂り過ぎにより、メタボリック症候群や不健康な生活へのリスクが高まっています。

脂質のエネルギー量は、1gあたり9Kcalと高カロリーで、エネルギー源となります。

※1Kcalは、1リットルの水を1℃上げることができるエネルギー量。

※タンパク質、炭水化物は約4Kcal/gであり、脂質のエネルギー量は2.25倍です。

脂質は大きく分類すると、脂肪酸・中性脂肪・リン脂質・コレステロール・ステロイドのように多種類あります。

また、食品に含まれる脂肪酸の種類により、動物性脂質・植物性脂質・魚介類の脂質と3種類に大別されます。

 

1.[ 脂肪酸 ]

(1)飽和脂肪酸 俗称 悪玉コレステロール( LDL )。動物性脂肪に多く含まれ、主にエネルギー源として使用。

(2)不飽和脂肪酸 俗称 善玉コレステロール( HDL )。悪玉コレステロールを減らす特徴があり、エネルギー源としても使用。一価不飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸に分類され、植物系と魚介類系があります。

植物系は、紅花油や大豆油などに含まれるリノール酸が代表的で、コレステロールの削減、ホルモンの生成や発育、脳の働き等にとって重要です。

魚介類系は、魚介類に多く含まれるEPAやDHAが代表的で、エネルギー源になり、中性脂肪を減らし脳神経の働きを良くするなどの役割を果たします。

 

  • 必須脂肪酸

不飽和脂肪酸である「リノール酸」「リノレン酸」「アラキドン酸」は、体内で合成できない、または、合成が難しい脂肪酸であり、必須脂肪酸と呼ばれています。

 

2.[ 中性脂肪 ]

エネルギー源。

中性脂肪は、飢餓対策用エネルギーとして体内に蓄えられる性質のため、体脂肪となり肥満の原因となっており、それが膵(すい)炎、C型肝炎、肝臓がん、肝硬変を助長すると考えられています。

一方で、内蔵を衝撃から守る、体温を保つなど、体にとって大切な役割も担っています。

 

3.[ リン脂質 ]

リン脂質は細胞膜の主要成分。細胞間の情報伝達にも関わり、体を構成する細胞にとって大切な脂質の1つ。

 

4.[ コレステロール ]

コレステロールは主に細胞膜に存在し、細胞にとって必要不可欠な脂質。

コレステロールは食事から摂取する量の4~5倍が、肝臓を主とする体内臓器で産生されています。肝臓は体内で作られる分の約70~80%を合成しているだけでなく、更に余っている善玉コレステロールを貯蔵したり、不要な分を分解・排泄したりする臓器なので、コレステロールが最も多く存在する場所です。

肝臓以外では、細胞が密集している脳と脊髄に多く存在しています。

コレステロールは、血管の病気、動脈硬化や生活習慣病の一因でもあります。

 

5.[ ステロイド ]

ステロイドは、体内で合成される細胞膜の重要な構成成分。

脂質の消化吸収を助ける胆汁酸、生体維持に重要なステロイドホルモン各種の生成に使用されています。

※ステロイドホルモンは、各種代謝に作用、炎症軽減、ストレス耐性増加、pHのバランス維持等の働きをするものと、男女の特徴を分ける性ホルモン等、数種類の総称です。ステロイドホルモンの産生不足は、さまざまな健康障害を招きます。

 

X.【 酵素 】

酵素は、人体に60兆個あるとされる細胞のすべてで産生されている物質です。

体内中で起きる生命維持に係わるあらゆる化学反応は、「酵素とよばれるタンパク質分子」の触媒作用によって成り立っています。

人は生き続けるために新陳代謝を行い続ける必要があり、酵素はそのために必須です。

すなわち酵素は、食材として摂取した有機化合物や無機化合物に触媒として働きかけ、生命維持に必要な物質に変換するための化学反応を起こさせるのです。

その内容は、物質の分解・消化を始めとして、吸収・輸送・代謝・排泄などの生命維持活動のすべてへの関与なのです。

 

1.[ 酵素の構成 ]

酵素は基本的にタンパク質から構成されますが、タンパク質だけで構成されている場合もあれば、非タンパク質性の補因子を含む複合タンパク質もあります。

強固な結合や共有結合をしている補因子を、補欠分子族といいます。

生体が求める微量金属元素の多くは、補欠分子族として酵素に組込まれています。

※ 補欠分子族としての金属元素(ミネラル)

鉄Fe 亜鉛Zn 銅Cu カルシウムCa マンガンMn モリブデンMo コバルトCo ニッケルNi セレンSe

 

2.[ 酵素の働きやすい温度帯 ]

酵素はタンパク質をもとに構成されているので、タンパク質と同様に熱やpH(ペーハー)によって変性し、活性を失うという特性をもっています。

人体において酵素が働きやすい温度は36~40℃です。

※ 酵素の働きやすい温度:動物 35~50℃、植物 40~60℃、好熱性細菌 80~100℃

 

3.[ 酵素の分類 ]

(1)体内酵素 (内部酵素、潜在酵素)

食事で摂取したタンパク質は、消化液で分解されてアミノ酸になり、小腸に送られて体内に吸収されます。そのアミノ酸は数十から数千個が体内細胞で再度組み合わさり、新たなタンパク質に作りだされ、それが細胞・臓器に必要な「体内酵素」として機能します。体内酵素は身体の内部でつくられるので、「内部酵素」ともよびます。

体内酵素は、その働きから「消化酵素」と「代謝酵素」の2種類に分類され、合計で5千種類以上あるとされています。

・消化酵素 食材を消化し、栄養素を体内に吸収するための必須酵素。約3,000種類。

・代謝酵素  代謝活動を活性化し、新陳代謝に必須な酵素。約2,000種類。

一生の間に作りだされる体内酵素の総量は、遺伝子によって誕生のときには既に決められていて、それ以上は作りだせないとされています。

更に、40代に入ると産生量が激減するといわれており、この体内酵素の大幅な減少が、体調不良の人が40代から多くなる原因といわれています。

※ 体内酵素は、「潜在酵素」とも呼ばれています。将来的に体内で作られるはずの酵素でありながら、今はまだ作られていない酵素という意味を込めてです。

 

★「消化酵素」の主な働き

前述 5.【 健康のために良い食事の摂り方 】をご参照ください。

 

★「代謝酵素」の主な働き

① 新陳代謝の促進・・・吸収された栄養分を細胞に届け、有効に働く手助けをする。

② 細胞の形成

③ ホルモンバランスの調整

④ 自然治癒力の向上

⑤ 体内毒素の除去・・・毒素を無毒化して、汗や尿と一緒に排泄する。

⑥ 免疫力の向上・・・病気や感染症、または異物に対して抵抗力を高める。

⑦ 神経系の正常化

⑧ 血液の浄化

⑨ 脂肪の分解・・・体内の余分な脂肪を分解して排出する。

 

とても重要な代謝酵素 その1.「 ATP合成酵素 」俗称:エネルギーの通貨。

人の細胞60兆個すべてに、1個当たり数百個から数千個のミトコンドリアという呼吸のための細胞小器官があり、そこでATP(アデノシン三リン酸)という

高エネルギー化合物が合成されています。

生体内に起こっているエネルギーが必要なさまざまな現象は、ATPの分解によって放出されるエネルギーを利用して行われているのです。

人は何もしないで寝ているだけでも、1日にほぼ自分の体重に相当する量のATPを合成しては分解しています。これは、体内に非常にたくさんのATP合成酵素があることを表しているのです。

 

とても重要な代謝酵素 その2.「 SOD 」(スーパーオキシドディスムターゼ)。

SODは抗酸化酵素です。活性酸素・フリーラジカルを消去あるいは除去する酵素で3つの類型があり、細胞質やミトコンドリアに多く局在しています。タンパク質に補因子として金属イオン-(銅と亜鉛)・(マンガンと鉄)・(ニッケル)が含まれる酵素で、酸化ストレスを減少させる働きを持っています。

SODの重要性は、健康細胞を破壊して細胞核内のDNA・RNA遺伝子までをも壊してしまうフリーラジカルを消去・除去する抗酸化力にあります。

 

(2)食物酵素(外部酵素)

食物酵素とは、食べ物の中に入っている自然の消化酵素です。

食事で栄養を補給する際に、一緒に天然の消化酵素を補給します。

それによって体内での消化酵素の分泌量を抑えることができます。

食物酵素は生きた酵素であるため熱に弱く、60℃で破壊されてしまいますので、生の食材や酵素が含まれている発酵食品の摂取をお奨めします。

 

★ 食物酵素が多く含まれている食品

・いちご、キウイ、パイナップル、イチジク、パパイヤ、アボガド、バナナ、マンゴーなどの果物

・魚介類、有機栽培の生野菜(農薬は酵素を破壊します)

・玄米、胚芽米

・味噌、しょう油、ぬかづけ、納豆、キムチ、ヨーグルトなどの発酵食品

※ 食品添加物・人工色素・保存料、インスタント食品、農薬を使った農作物、カフェインやアルコール類、抗生物質などの薬剤などは、使用している化学物質が酵素の中のタンパク質と結合して酵素量を減少させ、働きを低下させてしまいます。

 

4.[ 酵素から考える健康 ]

私達は酵素が無ければ、生きていけません。

しかも、一生の間に作り出せる体内酵素の量は決まっているため、体内酵素の浪費は寿命の短縮につながります。

裏返してみれば、限りある体内酵素を無駄遣いせずに節約することで、老化を防止し、いつまでも健康で若々しくいることができるともいえます。

酵素を最も多く使っている場所は、脳と胃を始めとする内臓器官です。

例えば、ストレスなどを強く感じると、脳で代謝酵素が大量に使用され激減します。

お酒を飲みすぎると肝臓で消化酵素が激減。胃や膵臓は普段から消化酵素を大量に消費しています。

 

5.[ 酵素の効果的使用 その前提条件 ]

酵素は、人が健康に生きるための「食物の消化」と「細胞の代謝」を支える不変の二本柱であります。ですから、いかに酵素を効果的に使うかは健康を左右する鍵になります。

(1)体内酵素には消化酵素と代謝酵素がありますが、両者を合わせた一生の産生量は有限であり、40歳代に入ると産生量が激減することをしっかり自覚する。

体内酵素は、「潜在酵素」ともよばれています。人の一生における体内酵素の産生量が有限という前提に基づき、過去に使用した・現在使用している体内酵素の残りはまだつくられずに隠れているという意味での呼称です。

 

(2)体内消化酵素の産生量を減らし、余力を代謝酵素の産生に振り替える工夫をする。

① 消化酵素を多く含む食物酵素をまんべんなく摂り、体内消化酵素の消耗を防ぐ。

② 食物酵素の多い生ものから先に食べることで、消化酵素の無駄使いを防ぐ。

③ よく噛んで、ゆっくり食べることで、消化酵素の無駄使いを防ぐ。

④ 腹八分目を意識し、食べ過ぎを控える。

⑤ 消化の悪い動物性タンパク質を少なくする。消化しきれない脂肪分は体内脂肪のもと。

⑥ 円滑な排便に。時には、プチダイエット、ファスティングなどで腸内環境を整える。

⑦ ストレスを抑える。いつも悲観的に考えることはストレスの最大原因。

⑧ アルコール、食品添加物・保存料を摂らないように努め、タバコを吸わない。

⑨ 7時間程度の睡眠を目標に起床時刻を一定に定め、安定した睡眠をとることで、消化・代謝の良好なリズムを築く。

 

6.[ 代表的な酵素の一覧 ]

(1)消化・同化作用・異化作用・エネルギー代謝に関与する酵素

・プロテアーゼ(タンパク質分解酵素)

・ペプシン、トリプシン(タンパク質分解酵素)

・パパイン、ブロメライン(タンパク質分解酵素)

・トロンビン(血液凝固系の酵素)

 

・脂質分解酵素

・リパーゼ(脂質の消化酵素、胃液・膵液に含有)

・リポタンパク質リパーゼ(体内脂質輸送)

 

・酸素添加酵素(オキシゲナーゼ)

・モノオキシゲナーゼ

・シトクロムP450(薬物の分解酵素)肝臓において解毒を行い、ステロイドホルモンの生合成、脂肪酸の二次代謝にも関与。

・ペルオキシダーゼ

・カタラーゼ 過酸化水素(活性酸素の生成物)の分解

・エネルギー代謝に関する酵素

・ATP合成酵素(呼吸鎖複合体におけるATP産生)

 

(2)遺伝に関する酵素

・DNAポリメラーゼ(DNAの複製・修復)

・RNAポリメラーゼ(DNAのm‐RNAへの転写、遺伝子の発現)

・ヌクレアーゼ(DNA・m-RNAの編集、拡散代謝)

・アミノアシルtRNAシンセテース(t-RNAの合成)

 

(3)細胞内のシグナル伝達・分子修飾に関する酵素

・リン酸化酵素(キナーゼ)(細胞の増殖、分裂、死亡等の指令発信)

・脱リン酸化酵素(フォスファターゼ)(脱シグナル化)

・グリコシルトランスフェラーゼ(生体内でオリゴ糖や多糖の合成に関与)

・DNAメチラーゼ(遺伝子発現の制御)

 

20世紀に入って、酵素に関連したノーベル化学賞、ノーベル生理学・医学賞の授与は、1997年までに計11回、19名になされており、大変重要な分野といえます。

(続く)

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