MCM論文③ MCM水摂取による高血圧および高脂血症の改善効果

MCM水摂取による高血圧および高脂血症の改善効果
川越 政美1)・周 小平2)・熊谷 彩子2)・王 静舒1)・馬 莉1)・王 斗斗1)・小泉 幸央1)・小代田宗一1)・杉山 俊博1)

1)秋田大学大学院医学系研究科病態制御学系 分子機能学・代謝機能学講座
2)秋田大学ベンチャー・ビジネスラボラトリー

 

Ⅰ.緒言
近年、微量ミネラル成分の欠乏と老化との関連が注目されている。老化症状と微量ミネラル欠乏症状との間には類似性があるといわれている。老化の病態学的背景には活性酸素・フリーラジカルの増加、免疫性の低下、血圧上昇や高脂血症などの循環器疾患、耐糖能異常ないし発がん等があるが、多くの種類の微量ミネラル欠乏で同じ病態が引き起こされる。例えば、フリーラジカルや活性酸素に対抗すべく、体の防衛力を高める働きをしているスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)は、亜鉛や銅、マンガンなどのミネラルが不足すると、その活性が低下してしまう1)。
一般に中高年にさしかかると生体内の微量ミネラルは、摂取・吸収量の低下や代謝・排泄過程の障害でバランスが崩れ、慢性的な欠乏状態に陥るとされている。従って、微量ミネラルの摂取はこれから中高年にさしかかる人たちの健康維持・疫病予防に重要な役割を果たすことになる2)。
メタボリックシンドロームは代謝症候群。シンドロームX、死の四重奏、インスリン抵抗性症候群、内臓脂肪症候群とも呼ばれる複合生活習慣病である3)。生活習慣病には、「肥満症」「糖尿病」「高血圧症」「高脂血症」といったものがあり、中高年が罹りやすい病気である。
これらの生活習慣病は、それぞれが独立した病気ではなく、肥満から引き起こされるため、たびたび症状は重複する。この生活習慣病の症状が重複すると動脈硬化を促進し、さらには致命的な心筋梗塞や脳梗塞などを起こしやすいことが分かっている。最近、これらの病気を起こす原因として、糖代謝や脂質代謝などさまざまな代謝異常があることがわかってきた4-7)。
高脂血症とは.血液中に溶けている脂質の値が必要量よりも異常に多い状態をいう。高脂血症は「沈黙の病気」といわれ、血中脂質が異常に増加してもほとんどの場合において自覚症状がないのが特徴である。血中脂質にはコレステロール、リン脂質、中性脂肪、遊離脂肪酸などがある。血液中に多い脂質の種類により高脂血症には次のタイプがある。
1)総コレステロールが高いタイプ
2)中性脂肪値が高いタイプ
3)両方の値が高いタイプ
血中脂質が高い状態が続くと狭心症、心筋梗塞などの心臓病にかかる危険性が高くなる。血液中の脂肪分はいくつかのタイプに分けられ、健康な人は、LDL-コレステロールが140未満、HDL-コレステロールが40以上、トリグリセライド(中性脂肪)が150未満である(単位はいずれもmg/dl)。この3つの値のいずれかがその範囲を超えた状態が、脂質異常症である。なお、脂質異常症という病名について、これは以前、高脂血症と呼ばれていた状態と同じである。しかし、善玉のHDL-コレステロールは高いほうが良いので、高脂血症という病名ではそぐわない点があるため、最近は脂質異常症と呼ばれている。
虚血性心疾患や脳卒中に関して、とくに危険な因子とされるのが、「肥満」「高血圧」「高脂血症」、「耐糖機能異常」の4因子で、重なるほど危険が高くなるのは当然であるが、これら4つはとくに「死の四重奏」として恐れられていて、これらがいずれも異常と診断された人の場合、虚血性心疾患や脳卒中になる可能性が、いずれも正常な人の約30倍以上になるといわれている。
動脈硬化はさまざまな危険因子が重なり合って起こる。それ故、それらの危険因子を除いていけば、ある程度防げる、高血圧が動脈硬化の大きな危険因子の一つだということはよく知られているが、高脂血症も重要な危険因子である4,5)。
海水濃縮物から塩化ナトリウムを可能な限り除去した後、さらに水銀等の有毒成分を除いた、常量及び微量元素含有ミネラル複合体(Marina Crystal.Minerals;以下、MCMと略記する)を経口的に投与することが、肝炎、高血圧、腫瘍、アトピー性皮膚炎、鼻炎などのアレルギーの治療剤として有効であることが報告された8,9)。
我々は既に、自然発症高血圧ラット(SHR)に生食水又は蒸留水を飲水させて飼育し、温水浴を行ったところ、生食水群にのみ血圧下降現象がみられたことを報告した10)。また、本態性高血圧を患者中にNa排泄能の良い者と悪い者とがあるという能登の報告11)や、高血圧患者に対して経口的にカリウムを投与することにより、尿量増加に伴って血圧下降がみられるという東の報告12)は.高血圧発症における電解質代謝の役割の重要性を示唆するもので興味深い。これらの研究をもとに今回、豊富な海水のミネラル分を含んだMCMをSHRに飲水投与することにより、高血圧症および高脂血症の予防又は治療に有効かどうかを検討した。

 

Ⅱ.実験方法
(1)実験材料、実験動物及び飼育条件
1) 実験材料
表1にMCMの主要成分を示す。MCMは、いろいろな海水を調査した結果、微量元素、プランクトンなどが一番多かった茨城県大洗沖の深さ100メートルの海水を用いた、原料海水を加熱濃縮し、ついで、この濃縮液に対し酢酸と木炭粉を添加し、加熱後冷却して、固形化した塩化ナトリウムを主体とし水銀等の有毒成分を含む固形化物の濾去した、濾液について、(1)酢酸と木炭粉の添加(2)加熱後冷却、及び固形化物の濾去の(1)~(3)の操作を繰り返し、最終濾液を濃縮して得られる残留固形物からなる海洋ミネラル複合体(MCM)である13)。また、MCMは薬品ではなく食品で、(株)海洋化学研究会から供与された。

表1. MCM成分分析結果(1g中)
カルシウム 113mg
マグネシウム 52.1mg
カリウム 33.1mg
ナトリウム 40.2mg
塩素 91.2mg
亜鉛 623μg
鉄 15.0μg
銅 0.38μg
マンガン 5.54μg
セレン 1.86μg
フッ素 19.0μg
ヨウ素 17.0μg
カドミウム 検出せず
鉛 検出せず
有機水銀 検出せず
有機物 417mg
水分 253mg

 

2) 動物および飼育条件
動物の飼育および実験は、すべて秋田大学バイオサイエンス教育・研究センター動物実験部門において行われた。また,本動物実験は「国立大学法人秋田大学動物実験規程」を遵守し、秋田大学動物実験委員会の許可を受けて行った。
生後4週齢の雄性SHRを(株)日本チャールズ・リバーより購入し、実験に用いた。1週間の予備飼育後、MCMの高血圧予防効果を検討する実験として、5週齢の雄性SHRを二群に分け、0.5%MCM含有水を自由飲水させた群(0.5%MCM群)と対照として水道水を自由飲水させる群(対照群)としてそれぞれ6匹使用した。
通常の長期飼育用固型飼料(日本クレア製CE-7)で生後24週齡まで飼育した。

 

3) 血液の採取
24週齢の0.5%MCM群のSHRと対照群のSHRそれぞれをエーテル麻酔下でと殺し断頭採血した。血清を遠心分離した後、冷蔵保存しておき、これを測定に供した。
4) 血圧測定
血圧測定には(株)利権開発社製rogramma-ble-sphygmomanometer PS-802 を用い、収縮期血圧を5~10回測定し、その平均値をとった。血圧測定は毎週1回行った。
5) 体重測定
体重測定は夏目製作所製KN-663YS式ラット自動天秤で行った。
6) 血液化学検査
以下の10項目について血清中の濃度を測定した。
①クレアニチン:Jaffe’-RATE法
②尿酸:ウリカーゼPOD法
③ナトリウム:イオン電極法
④クロール:イオン電極法
⑤カリウム:イオン電極法
⑥総コレステロール:コレステロール脱水素酵素法(UV法)
⑦HDL-コレステロールおよびLDL-コレステロール:アガロース電気泳動法
⑧中性脂肪(トリグリセライド/TG):GKGPOグリセロール消去法(酵素法)

 

7) 統計処理
本研究で得られた実験データは平均値±標準誤差で示した。統計処理は,分散分析(analysis of variance:ANOVA)を行い,さらにStudent's t-testを用い解析した.
有意差は、p<0.05以下で統計学的に有意差ありと判断した。

 

Ⅲ.結果
Ⅲ-1.高血圧発症過程におけるMCM水飲水の効果
(1) 体重に対するMCM水飲水の効果
対照群、0.5%MCM群とも加齢とともに増加し、両群とも優位な差は認められなかった(図1)。


(2)血圧に対するMCM水飲水の治療効果
図2に示したように、対象群の収縮期血圧(最高血圧)の変動は、加齢と共に上昇を示し、21~24週齢では、210mmHg前後の値を示した。SHRに5週齢から24週齢まで0.5%MCM含有水を自由飲水させると、実験開11週目(16週齢目)から19週目(24週齢目)まで、対照群に比べて危険率2%以下で有意に低い値を示した。その血圧差は平均で15mmHg前後であった。
(3)血液化学検査におけるMCM水飲水の効果
5週齢から24週齢まで継続的に飲水させた時の対照群及び0.5%MCM群におけるクレアニチン、尿酸、ナトリウム、クロール、カリウムの血液化学検査地に有意な差は見られなかった。
中性脂肪(図3)は、0.5%MCM群の方が対照群に比べて25%ほど明らかに低く、統計的に有意差が見られた。また、HDL-コレステロールも0.5%MCM群の方が対照群に比べて8%ほど明らかに高く、統計的に有意差が見られた(図4)。一方LDL-コレステロールでは、有意差は見られなかったが約12%低下していた(図5)。総コレステロールでは両群間には差は見られなかった(図6)。
以上の結果から、MCM水を幼若時から飲水させると,高血圧を正常血圧(110mmHg)にすることは出来なかったが,統計的に有意に血圧上昇抑制作用があったこと、また,中性脂肪が有意に低下していたこと、HDL-コレステロールが有意に上昇していたこと、LDLが低下傾向を示したことから、MCM水摂取により高血圧および高脂血症に対する改善効果が示唆された。

 

Ⅳ.考察
ヒトの血液と海水成分がほとんど同じミネラルバランスであるという特徴を持ったMCM (マリーナ・クリスタル・ミネラル)は,茨城県大洗沖の深さ100 メートルの海水を精製した100%天然のミネラルの微粉体である。表1にMCMの主要成分を示す。この表からわかる様にMCMは、電解質としてカルシウムイオンを11.3%も含んでおり、電解質の中では一番多くなっている。その成分は主に生体にとって吸収率の高いイオン化したカルシウム、カリウム、ナトリウムからなっている。すでに、遺伝性糖尿病マウスを使ったMCM投与実験で、約4ヶ月後に血糖値が低下したことが確かめられている。

 

一方,現在までにヒトの本態性高血圧症は、高血圧ラット(SHR)を使った研究で,糖尿病と同様に,複数の疾患遺伝子が発見されており(ヒトでは10数個、ラットでは1〜4個あると考えられている)。その基盤上に環境因子の負荷により発症する多因子遺伝病であることが分ってきた14)。また、それらの疾患遺伝子の一つに異常があり、それにより動脈平滑筋に膜の異常が生じ、細胞内のイオンカルシウム濃度を異常に増加させる。その結果、動脈平滑筋の過収縮と不完全她緩が起こり、血圧を上昇させるということも知られている15)。さらに、カルシウム、マグネシウムとカリウムを同時に摂取すると食塩感受性の高血圧に対して抑制的に作用することが分かった16-18)。以上の知見から、今回の実験でMCM摂取により降圧作用が有意に認められた理由は,電解質代謝が促進された結果、降圧作用が生じたと考えられる。
ヒトでは高カルシウム含有食物を摂取すると脂肪蓄積が抑制された19)。その作用機構は,高カルシウム食では血中のカルシトリオールが減少するために脂肪細胞内のカルシウム取り込みが抑制され,その結果,脂肪合成系酵素の発現が抑制されて脂肪蓄積が減少すると言われている。本研究でラットでも、カルシウムを豊富に含んだMCM水は脂質代謝の改善に有効であることを明らかにした。このことは降圧作用と同時に動脈硬化の改善につながることが考えられる。
MCMの高血圧および高脂血症の予防効果について考察してみると、MCM投与群における高血圧の抑制と中性脂肪の著明な低下はMCMがメタボリック症候群の予防に有効であるということが示唆された。つまり、MCMは高血圧症や高脂血症を改善することにより動脈硬化の予防効果が期待できると考えられる。今後、動脈硬化モデル動物(例えば、動脈硬化易発症性ラット20,21)。WHHLウサギ22)等を使用した実験により、さらに詳細に検討していく必要があるものと思われる。

 

Ⅴ.結語
ヒトの本態性高血圧症のモデル動物であるSHR(雄性)を使い,高血圧発症以前の幼若時(5週齢)より成獣時(24週齢)まで0.5%MCM含有水を自由飲水させ、その高血圧や脂質代謝に対する改善効果を血圧等と血液の生化学検査値の両面から検討した。その結果、成獣時(20~24週齢)では対照群に比べて平均で15mmHg程度の有意な血圧上昇抑制作用があることが確認された。次に血中脂質では、中性脂肪は対照群に比べ0.5%MCM群の方が危険率2%以下で有意に高値を示した。さらに血中の善玉HDL-コレステロールは危険率を2%以下で有意に高値を示した。一方、悪玉LDL-コレステロールは、0.5%MCM群の方が12%低かった。以上の結果から、MCM水を幼若時から飲水させると、抗高血圧、抗高脂血症抑制効果が認められ、動脈硬化に対する改善効果が示唆された。

 

Ⅵ.参考文献
1) 塚原宏一(2007)酸化ストレスとレドックス制御 総合臨牀 56, 2915-2918.
2) 片井加奈子、山本智美(2000) 微量元素•サプリメント。 診断と治療 88,1902-1910.
3) 中村正,下村伊一郎(2005) メタボリックシンドロームの臨床・基礎オーバービュー―日本人メタボリックシンドロームの診断と基礎病態の解明をめざして―。
下村伊一郎.松澤佑次 編、メタボリックシンドローム病態の分子生物学。南山堂、東京、pp. 3-12.
4) 平野勉(2007) メタボリックシンドロームと脂質代謝異常-特集メタボリックup to date ― 日本医師会雑誌136, S123-131.
5) 寺本民生(2006) メタボリックシンドロームと脂質異常.臨床栄養108, 665-669.
6) 伊藤裕(2005) メタボリックドミノと生活習慣病治療ストラテジーの構築。
下村伊一郎、松澤佑次 編、メタボリックシンドローム病態の分子生物学。南山堂、東京、pp. 28-46.
7) 岡芳知(2007) インスリン抵抗性。日本医師会雑誌136, S81-83.
8) ラビエ編集部(1993) MCM (マリーナ•カルシウムミネラル)―海がくれる豊富なミネラル―La Vie,279, 40-44.
9) 特開平10-120578「海洋ミネラル成分からなる治療及び/または予防剤」
10) 脇坂晟、川越政美、池田左千雄、奥原英二、内藤賢一(1985)自然発生高血圧ラット(SHR)の血圧および血中の生化学像に及ぼす温泉浴の影響。秋田医学11,621-630.
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13) 特開2000-166505「微童元素を含む食用塩組成物及びその製造法」
14) 檜垣實男(1993) 分子高血圧学の臨床応用。特集;分子高血圧学とは何かMolecular Medicine, 30,1376-1386.
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17) Suter, P.M., Sierro, C. and Vetter, W. (2002) Nutritional factors in the control of blood pressure and hypertension. Nutr. Clin. Care, 5, 9-19.
18) Karppanen, H, Karppanen, P. and Mervaala, E.(2005). Why and how to implement sodium, potassium, calcium, and magnesium changes in food items and diet? J. Hum, Hypertens.,19,10-19.
19) Zemel, M.B.(2005) The role of dairy foods in weight management. J.Am. Coll. Nutr.,24, 537-546.
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