健康は自らで守るセルフケアーの時代 6

XⅠ.【 ホルモン 】

人は個体を成長させ健康に生き、更に子孫を残すための仕組みを体内に持っています。

その仕組みの基盤は、人に生まれながらにして備わっている「恒常性維持機能」であり、その制御は「内分泌系(ホルモン分泌)」「神経系」「免疫系」が行っています。

この「内分泌系」の主役が「ホルモン」です。

人では100種類以上が確認されていますが、今後更なる発見が予測されています。

ホルモンは、人をはじめとしてすべての動物の体内で微量に産生される特殊な化学物質です。

動物の種類によってつくられるホルモンの質と種類は千差万別であり、数千種類に及ぶとのことです。同様に植物でもホルモンが作られていますが、その詳細は解明されておりません。

ホルモンは、特定の臓器(内分泌臓器)で作られ、血流に乗って体内の遠くまで運ばれます。

特定の標的器官細胞(ホルモンが作用を発揮する器官の細胞 -ホルモンの受容体 )に作用し、少量で特異的な効果を発揮する生理活性物質です。

具体的には、体内環境の恒常性維持(体内の各臓器のバランスをとって健康を維持)、エネルギー代謝、発育と成長、性の分化と生殖、の4つの生体機能を調節しています。

 

1.[ 主な内分泌器官 と 分泌ホルモン ]

(1)視床下部

視床下部は間脳にあり、自律機能の調節を行う総合中枢の組織です。

自律神経(交感神経・副交感神経)機能と内分泌機能を総合的に調節しており、体温調節中枢、脳下垂体ホルモンの調節中枢、体液浸透圧受容器などがあります。

ホルモンが深く関与する本能行動(摂食と飲水行動、性行動、睡眠)や情動行動(怒り、不安)の中枢組織であり、それらの行動を助長促進させる各種のホルモンを産生させるべく、元締め的な「○○刺激ホルモン放出ホルモン」(下記)を産生放出しています。

副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン

性腺刺激ホルモン放出ホルモン

甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン

成長ホルモン放出ホルモン

ソマトスタチン(脳下垂体、膵臓、消化管などで成長・代謝ホルモンや消化酵素の放出を抑制)

 

(2)脳下垂体 ( 下垂体とも呼ぶ )

脳下垂体は、脳の直下(腹側)、間脳の視床下部に接する位置にあり、前葉・中葉・後葉に分かれています。

下記のように多種類のホルモンを分泌する内分泌器官であり、分泌されたホルモンが効率よく血流にのって全身に運ばれるように、脳下垂体には血管が非常に多く張り巡らされています。

① 脳下垂体前葉   - ペプチド・糖タンパク質ホルモン

甲状腺刺激ホルモン

成長ホルモン

副腎皮質刺激ホルモン

エンケファリン(別名、体内モルヒネ。脳内に広く分布。視床下部・副腎皮質・消化管にも存在。痛覚などを抑えることに働く神経伝達物質)

βエンドルフィン(ストレスなどの刺激に産生されて、鎮痛・鎮静に働く)

卵胞刺激ホルモン(未成熟卵胞の成長促進、卵黄ホルモンの合成促進、精子形成促進)

② 脳下垂体中葉

メラニン細胞刺激ホルモン(インテルメジン。色素細胞メラニンの合成促進)

③ 脳下垂体後葉

抗利尿ホルモン(腎臓からの水分再吸収を調整、循環血液量や血漿浸透圧を維持)

オキシトシン(子宮収縮)

 

(3)松果体

メラトニン(眠気・睡眠を促進するホルモンの産生分泌)

 

(4)甲状腺

喉仏の直ぐ近く、首上方の気管を取り囲むように張り付いている器官

チロキシン(甲状腺ホルモンの1種、代謝促進作用)

トリヨードサイロニン(甲状腺ホルモンの1種)

カルシトニン(骨からのカルシウム放出を抑制)

 

(5)副甲状腺(上皮小体)

副甲状腺ホルモン(骨、腎臓、小腸から血液へのカルシウム取り込みを促進)

 

(6)副腎

左右の腎臓の上方にある二重構造した器官。表層の方が副腎皮質、内側が副腎髄質。

① 副腎皮質・・・ステロイドホルモンの産生

糖質コルチロイド(各種代謝に作用、炎症軽減、ストレス耐性増加)

鉱質(電解質)コルチロイド(ナトリウムイオンの再吸収、カリウムイオンの排出促進)

卵黄ホルモン(エストロゲン類)(女性二次性器の成熟と機能促進)

男性ホルモン(アンドロゲン類)(男性二次性器の成熟と機能促進)

② 副腎髄質・・・アミノ酸誘導体ホルモン

アドレナリン(神経伝達物質。血圧上昇、平滑筋収縮と弛緩、肝臓・骨格筋での解等促進)

ノルアドレナリン(「怒りのホルモン」神経を興奮させる神経伝達物質。意欲・不安・恐怖と深い関係あり。脳内で一番多く分泌。覚醒・集中・記憶・積極性・痛覚抑制の働き)

ドーパミン(神経伝達物質。行動による学習の強化因子。運動調節・快の感情・意欲などに関与)

 

(7)膵臓

グルカゴン(血糖上昇、グリコーゲン分解、脂肪分解)

インスリン(血糖降下、グルコース取り込み、脂肪合成)

 

(8)生殖腺

① 卵巣

インヒビン(ペプチドホルモン。卵子の数量をコントロール)

プロゲステロン(ステロイドホルモン。黄体ホルモン。月経周期と妊娠維持。代謝作用に必要不可欠、他のホルモンバランスをも調整)

② 精巣(睾丸)

インヒビン(ペプチドホルモン。精子の数量をコントロール)

アンドロゲン(男性二次性器の成熟と機能促進)

 

2.[ 内分泌器ではなくホルモンを産生する器官 ]

(1)胃

ガストリン(胃酸とペプシノーゲン分泌促進)

 

(2)肝臓

ソマトメジン(軟骨成長促進、細胞の成長と分裂を促進する成長ホルモンの一種)

 

(3)十二指腸

胃抑制ペプチド(胃液分泌、胃の収縮抑制、インスリン分泌促進)

セレクチン(膵臓に運ばれて重炭酸イオンの分泌を促進)

コレシストキニン(消化酵素に富む膵液の分泌を促進する。胆嚢を収縮、胆汁排出を促進)

 

(4)胎盤

エストロゲン(ステロイドホルモン。卵胞ホルモン。乳腺細胞の増殖促進、卵巣排卵制御、脂質代謝制御、インスリン作用、血液凝固作用、意識女性化、皮膚薄化)

ヒト絨毛性ゴロナドトロピン(妊娠中に産生されるホルモン。黄体の保持を促進し、プロゲステロンを分泌させる)

 

3.[ ホルモンを理解するにあたってのポイント ]

(1)多種類あるホルモンのほとんどは、「タンパク質を構成するアミノ酸の重合体」(ポリペプチド)からできており、親水性です。

しかし、ステロイドホルモンに属する複数のホルモンは、脂質であるコレステロールから合成され、疎水性です。

 

(2)内分泌臓器でつくられたホルモンは、遠くのホルモン受容体に作用すると考えられてきましたし、多くのホルモンはそのとおりです。

しかし最近になり、遠くに送られずに身近なホルモン受容体に作用する局所ホルモンの存在が分かってきました。「傍分泌ホルモン」と「自己分泌ホルモン」です。

① 傍分泌ホルモン 隣接した細胞に作用する分泌

② 自己分泌ホルモン 分泌細胞自体に作用する分泌

 

(3)内分泌腺とよばれるホルモンの内分泌臓器は、産生物である分泌物ホルモンを外部に搬送する導管を持っていません。

産生物ホルモンは、血液中に分泌され、血液循環によりホルモン受容体に運ばれます。

内分泌腺に対比する腺として、外分泌線があります。

外分泌腺は、産生物質の貯蔵場所と搬送のための導管を持っており、汗腺・涙腺・皮脂線・唾液腺・肝臓・胃腺・前立腺・カウパー腺・バルトリン腺などがあります。

また、内分泌・外分泌の両方を行う器官として膵臓があります。

 

(4)多くのホルモンは内分泌する臓器が1つですが、数種のホルモンは複数の臓器でも作られることが分かっています。傍分泌ホルモンと自己分泌されるホルモンです。

 

(5)[A]ホルモンは、[A]ホルモンの受容体細胞でのみ、受け入れてもらえます。

[A]ホルモンと[A]ホルモン受容体との関係は、1対1であり、他の組み合わせではホルモンの受け入れは行われません。

 

(6)ホルモンの受容体である細胞膜は脂質でできています。

その結果、ホルモンの質が親水性か疎水性であるかが問題となります。

親水性ホルモンは、脂質でできている細胞膜を通過できません。

ですから、親水性ホルモンの受容体は細胞膜に存在し、細胞膜で結合します。

疎水性ホルモンは脂質を通過できるので細胞内に入り、内部の細胞質または細胞核にある受容体と結合します。

 

(7)ホルモンは、ある体内器官に対してある命令を行い、命令された器官が課せられた働きをすることで、人体に期待される影響を間接的に及ぼす活性物質です。

例えば、消化に関するホルモンは複数存在しますが、それらの消化ホルモンは食物の消化活動を一切行いません。消化のすべては、体内生成された複数の消化酵素によって行われます。

消化ホルモンの役割は、消化酵素を出す器官を制御し、消化酵素の生成量を調節することにあります。

 

(8)ホルモンは、極めて少量で生体に影響を及ぼすことができます。

ホルモンのアミノ酸分子構成が、ホルモン受容体細胞の受け入れ条件に合致するものであれば、ホルモン分子1個でもホルモン受容体の器官に対して命令が可能であり、ホルモンとしての役目を果たすことができるのです。

※ 酵素は生成される量が満たされるかが問題となりますが、ホルモンは受容体が必要とする分子が存在しているかが問題となります。

 

(9)「正のフィードバック」と「負のフィードバック」

ホルモンは、内分泌に関して「産生と放出」と「産生の抑制」といった2種類の「自己調節機能」を持っていますが、その背後には複数の内分泌器(受容体を兼務)がバックアップ部隊として存在しています。

恒常性維持のため、ある特定ホルモン[α]が内分泌器[A]で産生放出される場合、その放出に先立ち別のホルモン[β]が別の内分泌器[B]で産生されて受容体としての[A]に放出されています。その[β]の働きで、[A]で[α]が産生され放出されるのです。

この[β]を産生放出する前段階として更に1段階、ホルモン[γ]と内分泌器[C]が存在するケースがあります。

このようにホルモンの産生放出の元へさかのぼることを「正のフィードバック」といいます。

※「 正のフィードバック」の実例:

甲状腺ホルモンが分泌されるには甲状腺刺激ホルモンが必要であり、甲状腺刺激ホルモンが分泌されるためには、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンが必要です。

( 甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンを脳の視床下部から放出 → 甲状腺刺激ホルモンを脳下垂体前葉から放出 → 甲状腺で甲状腺ホルモンを産生)

しかし、ホルモン[α]の量が多くなりすぎると、その産生を抑制しなければなりません。

このとき、今度はホルモン[α]が自分自身、またはその産生を命令した前のホルモン[β]の分泌器[B]に働きかけ、自らのホルモン[α]の産生を抑制する働きをします。

更に遡って、[β]が受容器[C]に働きかけ、内分泌器としての[C]がホルモン[γ]の産生を抑えることもあります。

このようにホルモンの産生を元に戻って抑制するシステムは、「負のフィードバック」と称され、自分自身に負のフィードバックをするときが「超短経路負フィードバック」、一つ上位のホルモンに作用するときは「短経路フィードバック」、二つ以上の上位に作用する場合は「長経路フィードバック」と、3種類に分類されています。

 

(10)ホルモンはアナログ、神経系はデジタル

脳や脊髄は、末梢神経系を通じて送られた体内の各所での恒常性が崩れた状況を知り、生体機能の正常化や破損した細胞の再生に向け、酵素・ホルモンの産生を体内器官に指示します。

加えて、気候や人的交流などにより変化する体外環境への対応、スポーツなどでの俊敏な判断と動きなど、脳と脊髄を目一杯使って考え行動しています。

このため、神経系はデジタルで超迅速な体内情報伝達システムに仕上がっています。

一方、ホルモンは産生されるまでに複数の過程を経なければならないので、神経系のように直ぐに結果をだすといった動きはとれません。

 

(11)ホルモンの原材料成分

ホルモンのほとんどは、分泌器官の区別なくポリペプチド・糖タンパク質からできています。

副腎髄質で作られるアドレナリン・ノルアドレナリン・ドーパミンも、アミノ酸誘導体ホルモンなのでタンパク質系です。

例外は、コレステロールを原材料とするステロイドホルモンで、副腎皮質と卵巣・胎盤で作られます。

(続く)

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